介護保険改訂について
■高齢者の人口推移
総務省統計局のデータによると、平成15年9月における日本の65歳以上人口は2431万人で、総人口の19%を占め過去最高となりました。しかも毎年0.5%程度の増加傾向にあり、年々高齢者の方は増えてきているのです。でも、最近の65歳以上の人って、昔に比べて若くて活発的な人が多いですよね。まだまだ現役でバリバリ仕事をしている人も多いから大丈夫なんじゃないの?って、思いますよね。でも、それは半分正解で半分間違いと言えるでしょう。確かに元気な高齢者の人は年々増えてきています。しかし、先にも言いましたように、高齢者の人口があまりにも急速に伸びていることから、介護保険による医療費が年々増加していることも事実なのであります。そして、その介護保険を支える若年層が少子化の為に年々減少傾向にあることがその悪化にさらに拍車を掛けているのです。それはそうですよね。保険料を納める人数が減って、使う人が増えていくのですから。そして、このままでは国の財政が破綻してしまうかもしれないのです。いえ、しまうかもしれないのではなく、破綻してしまいます。
■高齢者対策の歴史
高齢者対策の国策は遡れば1963年の『老人福祉法』の制定からスタート致しました。
1963年 老人福祉法の制定
1990年 ゴールドプランの制定 / 福祉8法の改正
1995年 新ゴールドプラン
1997年 介護保険法制定
1999年10月 要介護認定スタート
2000年4月 介護保険法執行
2003年4月 第2期事業運営期間スタート
2004〜5年 執行5年を目途とする見直し
2004年 ゴールドプラン21の最終年
2005年 ポスト・ゴールドプラン21
2006年 介護保険制度の見直し執行
ご覧になっただけでもかなりの施策を「高齢者対策」と言う名のもとに国策として打ち出してきました。そして、2000年に現在の「高齢者対策」の根幹となる『介護保険法』が執行されたのでした。
■2000年介護保険スタート
でも、お金を掛けても高齢者の方が介護保険を使って「便利で幸せな生活」を手に入れられるのならいいんじゃないの?と、考える方もいるかと思います。確かに高齢者の方に本当にいいサービスを提供できる介護保険なら、「スウェーデン」のように税金は高くても豊かな老後を手にできるという考え方が成り立つでしょう。しかし、2000年4月にスタートされた日本の「介護保険」は時間が経過していくごとに、様々な問題点が明確になっていったのでした。それは決して高齢者の方に取って、「本当にいいサービス」と呼べるものでは
なかったのです。
■介護保険の問題点
2000年に開始された介護保険は簡単に言うと、「高齢者が快適な生活をする為の保険」と言えました。えっ?快適な生活が送れるならいいなじゃないの?!そうですよね!本当に快適な生活が送れるならいいのですが、そこには大きな落とし穴が待っていたのでした。その落とし穴とはこういうことです。
■介護保険の落とし穴
ここに介護保険の適用を受けたいという65歳のお婆さんがいました。最近少し足が悪くなって、買い物に行くのも辛いし、朝布団から起き上がるのも大変になってきていましたが、一人暮らしの為我慢して頑張ってきました。そんな時に介護保険が始まることを知って、今の不便な生活が国の援助で快適な暮らしができるならと、介護保険の申請を役場にし、色々な審査を受けて、晴れて介護保険の対象者として認定されたのでした。早速お婆さんの家に生活を快適にする為の「ケアプラン」というものを作ってくれる「ケアマネージャー」と言われる資格を持った人が尋ねてきました。
そして、そのケアマネージャーさんはお婆ちゃんの日常生活で不便に思っていることや足が悪いことを聞いたうえで、おばあちゃんの生活が快適になる為のケアプランという計画を立ててくれたのでした。
その内容は、
・足が悪くて買い物に行くのが辛いから「車いす」を用意しましょう。
・朝布団から起き上がるのが辛いから「電動ベッド」を用意しましょう。
・一人暮らしで寂しいでしょうから、「訪問介護」をしてもらいましょう。
というものでした。
お婆さんは、国の援助でそれらのサービスを受け快適な生活を手に入れることができたのでした。んっ???良いこと尽くめじゃないの?でも、ここには隠された落とし穴があったのでした。それは、足が悪かったお婆さんは車いすをレンタルして行動範囲が広がりました。歩いては行けなかった近所のスーパーにも、楽に買い物に行けるようになりました。しかし、今までトイレまで歩いて自力で歩いて行けていたのが、いつの間にか歩いて行けなくなってしまったのです。
そう。今までは痛いなりにも頑張って歩いていたのが、車いすをレンタルしたことによって、歩かなくなった為に足の機能がどんどん衰えていったのです。その結果、今まで自分の意志で歩いて行っていた家の中のトイレまでも、車いすで行かなければならなくなったのです。そして、電動ベッドに慣れてしまった身体は、ベットから自力で起き上がって活動する意欲も減退させるのでした。そして、今までは自分の食事の後片付けや入浴も、訪問介護で優しいヘルパーさんが全て手伝ってくれるので、ヘルパーさんがいなければ生活ができなくなってしまったのでした。
さて、どうでしょう?
一見快適で便利な生活が手に入ったように見えたお婆さんですが、その結末は生活行動体力の低下や自立意識の低下につながってしまったのでした。これはあくまでも極端な例であり、本当に良い意味で快適な生活を手に入れた高齢者も多くいます。しかし、介護保険の適用によってこのような事態が起こっていたのも事実なのです。
更に重要なことはその費用についてです。介護予防サービスでは、要介護に認定を受ければ介護保険から支給される給付金の対象者となります。例えば、車いすや電動介護ベットはレンタル料の1割を本人が負担するだけで残りの9割は保険から支払われます。その他にも、購入多少品目である「排泄・入浴用品」等も定価の1割負担で購入することができるのです。つまり、ケアマネージャーが立てたケアプランに含まれているサービス・用具は、ほとんどが介護保険が費用の援助をしてくれているのです。収入の少ない高齢者の方に経済的な負担を強いない為の施策なのですが、予想以上に執行金額が膨らみ、僅か開始5年で早くも正常な運営ができなくなることが予見されるようになってしまいました。
今まで行われていた「介護保険事業」は悪く言ってしまえば、「お金を使って、身体機能を衰えさせていた」
と、いう言い方ができてしまうような制度であったのです。そこで、真の意味で「快適な生活」を手に入れる為の保険制度が必要になってきたのでした。
(文責:太井彦治:介護関係の仕事に従事。執筆・取材も受けています。)